梨農家の繁忙期っていつ?
シーズン最後の梨「王秋」の収穫も終盤を迎え、ついに収穫作業が終わりを迎えます。
梨農家の繁忙期=収穫シーズンの秋、と思われることが多いのですが、実は違います。
今回の記事では、梨農家の年間スケジュールを紹介してみたいと思います。
3月 タイミングが命 交配シーズン
受粉する作業のことを、「交配」と言います。
各梨畑には実のなる木と別に”交配用の木”が植っており、温かい日が続く様になると、梨農家はいつ花が咲き始めるかとそわそわし始めます。そして、つぼみがふくらんで花開く直前になると、梨農家は一斉に花を取り始めます。
コンテナぎっしりに花を詰めたら、次は専用の機械やざるを使って花から葯(花粉が入った袋)を取り出します。10コンテナぎっしりにあった花も、葯だけにするといちごパック2つ分くらいになってしまいます。
取り出した葯は、自分たちや専用の業者さんに依頼して温め、花粉を出しやすくして保管しておきます。
実のなる品種の花が咲き始めたら、ついに交配です。
専用の機械や道具を使って、準備しておいた葯から花粉を擦り出した後は、機械や手作業で咲いた花につけていきます。気温が15℃以上の雨が降らない時でないと受粉できないため、日中の温かい時間に手早く交配していきます。
交配が遅れたり、失敗したりすると実がならないので、一番梨農家がヒヤヒヤする作業かもしれません。交配した後に雨が降ったりすると、やり直したりすることもあります…。
4月〜7月 【大繁忙期】とにかく素早く 間引き・袋掛けシーズン
「間引き(摘果)」とは、ひとつひとつが大きく育つように、実を減らしていく作業です。
一つの花から3~6個ほど着果するので、その中から一番綺麗に大きく育ちそうなのを吟味し、それ以外の実をはさみや手で除いていきます。この作業をいかに手早く的確に行なっていくか、が各梨農家の腕の見せ所です。早く間引きが終われば、残った実に栄養が集中するので、大きく美味しくなるのです。
間引きが終われば、ほぼ休む暇なく袋掛け作業へと移行します。これも、虫や風で実に傷が出来てしまう前に、できるだけ早く終わらせないといけません。
梨を守る袋には2種類あり、青梨(二十世紀梨など)にのみかける「小袋」と青梨・赤梨両方にかける「大袋」があります。
赤梨は多少傷がついても、成長すると目立たなくなるものがほとんどなのですが、青梨はとても繊細なため、爪でひっかいてしまっても傷が残ります。そのため、小さい実の段階で先に小袋をかけて守っておくのです。つまり、青梨は2回、赤梨は1回袋掛け作業があります。
ちなみに、小袋は初心者なら1日800枚かけれたら上出来、梨農家は1日2000枚かけてやっと一人前と言われています。超ベテランの方だと1日で4000枚かける人もいるとか…!もはや早すぎて手元が見えないんじゃないでしょうか…。ぜひ一度その神技を拝見したいところです。
間引きと袋掛けは、本当に果てしない作業です。この時期は間引きや袋掛けの風景が脳裏に焼きつくため、目を閉じると目の前に小さな梨の実が浮かぶようになり、夢の中でも間引きや袋掛けをしています(マジです)。まさに、梨農家の大繁忙期がこのシーズンなのです。
8月〜11月 ところどころ休める 収穫シーズン
こうさてん十では、8月中旬ごろから最初の梨が獲れ始めます。
個人出荷の品種は、ときどき味見をしながら、大きさや味がベストなタイミングで収穫し、発送していきます。農協出荷のものは、出荷日が決められているので、その日に合わせて一気に収穫していきます。
なので、実は収穫がない日はお休みできる、梨農家にとってちょっとしたのんびりシーズンです。
JA出荷の品種は、1回で500kg以上収穫するのがデフォルトなので、収穫作業はみなさんの想像どおり重労働です。ですが、重い分大きくなってくれているということでもあるので、作業自体は割とウキウキしながらできるものです。「今年は去年よりさらに良いぞ〜」と思いながら作業していると、あっという間に終わります。
この時期の敵は、台風と害獣・害虫です。大きく実れば、その分風で落ちやすくなり、美味しくなればなるほど、イノシシやカラス、カメムシなどに狙われます。せっかく良い梨が出来ても、出荷できなければ1年間の苦労が水の泡になります。台風が来る前に多めに収穫したり、害獣よけ対策グッズを駆使したり、ここぞと言うタイミングで必要な薬剤をまいたり…臨機応変に対応してやっと皆さんのもとへ梨を届けられるようになるのです。
12月〜2月 寒さと枝との戦い 剪定・誘引シーズン
「剪定」は余分な枝を切り落としていく作業で、「誘引」は必要な枝を持っていきたい方向へ伸ばしていく作業です。
梨園の木は、棚に沿って枝が横に伸ばされていますが、放っておくと森の木のように上へ上へ伸びて管理が困難となります。そうならないように枝を整えるのが、この剪定・誘引作業です。また、要らない枝の成長に費やされる栄養を制限する役割や、間引き・袋掛けの作業効率アップを図る役割もあります。
一本一本の成長具合や今年度の実の成り方を考慮しながら、来年どのように実がなるのが理想なのか設計していくため、まさに梨農家の知識と経験をフル活用するプロフェッショナルな作業です。
山陰の厳しい寒さの中、頭と体を使って、そんな緻密で繊細な作業を進めていきます。梨の枝はたった一年でもかなり太く重くなるため、一本切るにも想像以上に時間と労力を使います。
梨一本あたりにかける労働時間は剪定・誘引が一番多いのですが、冬場は日照時間が短く、雪も降るため、なかなか作業が思うように進まないことも多々あります。交配シーズンに入る前に終わらせないといけないため、案外この作業も時間との勝負です。
ちなみに、この時出る大量の枝をうちでは薪ストーブの燃料にしています。一年間しっかり乾燥させれば、水分の多い梨の木でもばっちり使えます。
こうして、剪定・誘引が終わると次のシーズンの梨の赤ちゃんを迎えるべく、また交配作業へと梨農家の仕事は続いていくのです。
さいごに
農家界(?)では、実は「梨農家は一年中忙しい」というイメージがあります。
梨農家に限らず、果樹全般そうかもしれませんが、梨は”木”を育てていくため、みなさんがお家の植物やペットをお世話する様に、日々何かしら作業していかなければなりません。
そのため、一応繁忙期というものは存在するのですが、年間を通じて何やかんや畑で作業しています。時間に追われる作業も多いため、まさに体力勝負です。そうしてやっと、美味しい梨をみなさまのもとへお届けできるのです。
農業の機械化が進む現代ですが、梨は米や野菜と違ってまだまだ人間の手で行わなければならない作業がほとんどです。今回書ききれなかった作業も沢山あります。全国の梨農家さん、本当に頑張っていらっしゃいます。
梨を見て「高い!」と思われる前に、一度今回の記事を思い出して、今一度その労力にあったものか見定めて頂けるとと嬉しいです。